心地いい雨
サアァァー…
黒い空からひとつ、またひとつ水が降ってきて地面を濡らしていく。
雨だ…
「あぁ〜!雨降ってきた!」
美術の課題『未来の私』であんな絵(3巻参照)を描いた織姫は
居残りで絵を描き直していたのだった。
「たつきちゃん帰ったよね…」
たつきの靴箱を見ると靴はなく、上靴だけだった。
窓から空を見上げる織姫。
雨はすぐに止みそうにない。
「早く帰らないと芸人だけのお笑いが始まっちゃうよ〜!…あっ!そだ!」
織姫は何か思いついたようで、玄関に出た。
「こんな時はお兄ちゃんが教えてくれた雨乞いのダンスだ!」
と言って両手をあげ踊る織姫。
「やぁっ!とぉっ!」
はたから見たら怪しい人にしか見えないが、
今は放課後なので大半の生徒は帰ってしまっている。
だが学校にはまだ数人の生徒が残っていて…
「井上…??」
「とりゃあぁ!…あれ?黒崎くんだぁ」
呼ばれて振り返って見ると、そこには黒崎一護が怪訝そうな顔で織姫を見ていた。
「何してたんだ?」
「雨が止むように雨乞いのダンスしていたの〜!」
と言ってポーズをとる織姫。
「雨乞いって確か雨が降らない時にやるんじゃなかったか?
しかもそのポーズってお弁当食べるポーズって言ってたような…?」
「あれ?そうだったっけ?ところで黒崎くんは何してたの?」
「日直だったんだけど相手が休みだったから時間かかったんだ。」
「そうなんだ〜!私は美術の課題の描き直してたの」
「へぇ〜」
一護は適当に返事をしながら帰る準備をする。
ザアァァー
さっきよりも激しく降る雨。
「えぇ〜!!何で〜!雨乞いのダンスしたのに…」
「いや、だから雨乞いは雨を降らすって…まぁいいや…」
天然の織姫に何を言っても無駄だと思った一護はため息を吐き、
傘立てから自分の傘を取り出し、織姫の前に差し出す。
「え…?」
「え?って傘忘れたんだろ?貸すよ。」
「でも黒崎くんは…?」
「俺はいい。」
「よ、よくないよ!!黒崎くんが濡れちゃうよ!」
両手をぶんぶん振って反対する織姫。
「そっか。」
そう言うと一護は玄関に行き、傘を広げる。
「ん。」
と言って傘の半分を織姫が入れるスペースを作る。
「うぇええ!?」
「なんだよその声?俺も井上も雨に濡れない方法はこれしかないだろ?」
「で、でも…」
「ほら」
なかなか入らない織姫に焦れ、一護は織姫の手を取り無理矢理傘に入れる。
「え、え〜と…。お邪魔しますです…///」
「なんだよそれ?」
一護は苦笑しながら言うと歩き始めた。
織姫も遅れないように歩き始めた。
―うわぁ…!く、黒崎くんと一緒に帰るなんてなんか緊張しちゃうよ〜!!―
「え、えっと…。黒崎くんはちゃんと傘持ってきたんだね?」
「ん?あぁ。俺の妹が持っていけって言ってたから。天気予報でも言ってただろ?」
「えへへ…実は朝ビデオに撮っていた笑点見てたから天気予報見てないの。」
「お前朝から笑点なんか見てんのかよ?」
「うん!面白いんだよぉ!」
歩いてた織姫はふと思った。
「黒崎くんの家ってこっちの方じゃないよね…?」
ちょっと曖昧に言う。確か反対方向だった気が…
「いいんだよ。俺こっちに用があるから。」
人が聞いたら少しぶっきらぼうに聞こえるかもしれない。
だが織姫は気にせず
「そっか…。ありがとう。」
「なんでお礼言うんだよ。」
「お礼が言いたかったから。」
「なんだよそれ?井上って変わってるな。」
「えへへ…よく言われる。」
織姫の言葉に苦笑する一護。
「……ねぇ、今日の黒崎くんってなんか変だよね…?」
朝からずっと思っていたことを言う。
なんか無理に元気に振る舞っている黒崎くん。
見ているとなんだか痛いたしくて…
「え…?」一護はびっくりした様に織姫を見る。
「あっ!もしかしたら私の勘違いかも…」
「いや…当たってる…。俺、雨嫌いなんだ。」
雨の日はおふくろの死んだ日のことを思い出す。
もしかしら命日が明日だからかもしれない。
「そっかなぁ?私は雨好きだよ!」
「…?」
一護は不思議そうに織姫を見る。
「だって、こうして黒崎くんと一緒に帰れたもん!」
にっこりと笑う織姫。その笑顔に一護は顔を赤くする。
「雨が好きなやつなんてはじめて聞いたぞ?
俺の妹なんか服乾かないって言うし…」
一護は顔が赤くなったのを織姫にバレないように上を向く。
「あははっ!それは嫌かも!」
「どっちだよ。」
「ん〜?やっぱり好きだな!」
織姫はえへへと笑うとそう言った。
「知ってる黒崎くん?雨が降った後は綺麗に星が出るんだよ?」
「星?」
「うん!お兄ちゃんが言ってたんだぁ!」
そうか…井上の兄貴って…
「寂しくないか…?」
織姫は少し間をあけて言った。
「寂しくないって言ったら嘘になるけど、
でもお兄ちゃんはいつでも見守ってくれてるもん。」
「そうか…」
そう言えばおふくろが死んで遊子と夏梨が悲しんでいた時、俺こう言ったんだっけ。
『母さんは星になっていつでも遊子と夏梨のこと見守っている。だから泣くな!』
って…
「あっ!雨やんできたね。」
織姫の言葉にはっとし、空を見上げる一護。
ぱらぱらと雨は降っているが、これくらいなら傘は要らないだろう。
「綺麗に星がでたらいいね!」
「そうだな…」
「だから黒崎くんも雨嫌いにならないでね?」
ふわふわとした雰囲気で笑う織姫。
「綺麗に星がでるって考えるとちょっとは好きになるかもな」
空を見上げるとうっすらと暗くて、一番星が輝いている。
夜は綺麗に星がたくさん見えるだろう。
「あっ!私こっちだから。」
と言って角を曲がろうとする織姫。
「…?井上の家ってこっちだろ?」
反対方向の道を指す一護。
「あの家ねぇ、追い出されたの〜!今はリッチなホテル暮らし!」
「追い出された…?」
っていうか俺達のせいか!?
「あのね!横綱がテッポウで穴あけたの!!」
「へ、へぇー!それはすげぇな!(棒読み)」
あの時のことがありありと思い出す。
「信じてくれるの!?千鶴ちゃんとか信じてくれなかったの!」
「あぁ…!」
そりゃ壁あけた本人ですから!!
「じゃあまた雨降らないうち帰るね!」
と言って織姫は手を振って走り出す。
「井上!!」
織姫が次の角を曲がる前に一護が呼びとめた。
織姫が不思議そうに一護の方を振り向いた。
「別に雨降ってなくても一緒に帰れるから!」
一護がそう言うと織姫は少しびっくりしたような顔をしたが、
すぐに笑顔になり、手を大きく振った。
今日の雨はいつもの雨と違っていて
なんだか心地いい雨だった。
終わり